「産後うつ」っぽくなった私の、小説「オネエ産婦人科」の読書感想。

オネエ産婦人科の表紙

私は産後に心療内科を受診したことがあります。第一子を出産して半年後のことでした。

どんな症状だったかというと、

  1. 過去を後悔して胸が苦しくなる
  2. 夫に対してイライラする

特に辛かったのが1)過去への後悔。

過ぎ去ったことを振り返っては無性に悲しくなるんです。目の前には可愛い赤ちゃんがいるのに、昔のことばかり後悔して育児を楽しめないという。

赤ちゃんが小さい時期はあっという間に過ぎてしまう。昔を振り返って悲しくなるなんて時間の無駄。そうわかっているのに、過去にとらわれる。自己嫌悪になる。

鬱々とした日々でした。

 

症状が1ヶ月くらい続いたので、藁をもつかむ気持ちで心療内科を受診。

【私】 先生、これ、「産後うつ」ですよね。

確信をもって先生に聞いたのですが返って来た答えは、

【医師】 医学的には鬱とは診断できないですね。

診察前に記入した問診表には、

  • 眠れないですか?
  • 食欲がないですか?

といった質問がありました。これらに対する私の答えは「NO」ばかり。だって、

赤ちゃんの夜泣き対応で、いつでも眠い。
母乳を出していたので、常にお腹が空いている。

問診の結果「うつ」とは診断されなかったものの、鬱々とした精神状態はトータルで2ヶ月間くらい続き、その後に自然と治りました。

心療内科を受診したことは、もっとも身近な存在の夫にさえ言えませんでした。

なぜ言えなかったのか?彼に余計な心配をかけたくない、という妻なりの配慮もあったけれど、一番は心が病んでいることを知られたくない、という自分の(ちっぽけな)プライドが邪魔していたから。

今回読んだのは小説「オネエ産婦人科 あなたがあなたらしく生きること /サンマ-ク出版/豪田トモ」です。

【ネタばれしない程度のストーリー】

主人公は産婦人科医師の橘継生(たちばなつぐお)。勤めていた総合病院で自分が担当する患者が”産後うつ”で自殺してしまいショックを受ける。事件を機に継生が転職したのは「尾音(オネエ)産婦人科」。ゲイの院長をはじめとする病院スタッフや患者と触れ合う中で、主人公は自分のトラウマを乗り越えていく。。。

本作中では、

  • LGBT
  • SNSでの炎上

といった今の日本で話題になっていること、そして、

  • 未受診妊婦
  • 常位胎盤早期剥離

といった妊娠・出産にかかわる問題などがでてきます。

よくもここまで色んなキーワードを盛り込めたなぁ、というのが読後の感想です。

私が興味があった”産後うつ”はこの小説の主要なテーマです。

読んでいて心に残ったのが、「尾音産婦人科」の院長先生のこのセリフ。

・・・僕らにできることは主に2点。まずはとにかく、精神的に寄り添うこと。そしてもうひとつは、ママを孤立させないこと。このクリニックが、産後の1か月検診のあとも、いつでも遊びにこられるような居場所づくりをしているのには、そういう意味がある。

 

妊娠中は定期的に通う産婦人科。でも、出産後の1ヶ月検診が終わると産婦人科とママの縁は切れてしまうのが一般的です。

「尾音産婦人科」のように、出産した病院で産後の精神的ケアをうけられれば、不安定な精神状態から救われるママが増えると思いました。

なぜなら、私が産後に精神不安になったとき、まず困ったのは病院探しだったから。

受診するのは心療内科だろうとは検討がつきましたが、ネットで検索すると

「〜〜心のクリニック」
「〜〜メンタルクリニック」

山のように病院がでてくるので、どこに行けば良いのやら。

(悩んだ末に、当時読んでいた行動認知療法の本を執筆したドクターが勤めるクリニックが偶然にも自宅の近くだったので、そこに行きました。)

本作の作者は豪田トモ氏。映画「うまれる」の監督さんです。

「重いテーマも軽やかに⭐︎」という豪田氏のモットー通り、本作では難しいテーマが個性的な登場人物を通して軽いタッチで表現されています。

文章も平易で、漫画を読む感覚でサクサク読めました。

漫画といえば、本作の表紙カバーと挿入イラストはドラマ「コウノドリ」の原作者・鈴ノ木ユウ氏です。イラストを発見しながら読み進めるのが楽しかったなぁ。

以上、読書感想でした。